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部屋に戻った私は、ケーキを開けて、旬のフルーツがたっぷりのったタルトを口にした。
それは甘酸っぱくて、美味しくて、なんだか泣けてくる味だった。
一哉くんからの連絡はなく、司さん達に連絡するのも気がひけていた。
1人悶々とする夜に、雨が降り出して、大きなガラス窓を濡らしていく。
「一哉くん…」
アメリカに戻ったばかりの一哉くんが恋しい。
でも会えば、あのパパラッチされた写真のことを問い正したくなるに決まっている。
それでも会いたい。
あれは違うと言ってほしい。
同時に、アンジェの存在がひどく疎ましかった。
今、一哉くんに一番近いところにいる存在。
同じニューヨークにいて、同じスタジオにいるかもしれない。
そう想像していくと、悪い方向に気持ちがどんどん進みそうだった。
このままでは、ぐんぐん前を向いて進む一哉くんの足を引っ張りそうだった。
そんな自分が情けなくて、ぐっと考えを断ち切る。
もう考えたくない。
もう一哉くんのことを思い出したくない。
思い出せば、そのままリンクするようにアンジェのことも、あの写真のことも蘇ってきてしまう。
辛かった。
どうしようもなく、辛かった。
スカイプですぐ繋がれるはずなのに、それに手を出す勇気もなく、私は声もなく泣き続けながら、タルトのケーキを口に運び続けていた。
今は、どうすればいいのか分からない。
ただ口に運ぶケーキの甘さだけが一筋の光のように思えていた。
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