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「そうか」
沈黙が降りた。
坂崎さんが何かを言いあぐねていることが分かって、私はにこりと笑った。
「昨日は無様なところ見せてしまいました。もう27歳にもなって何をあんなに動揺してるんだかって、家帰ってからちょっと情けなくなりました。事実でもそうじゃなくても、一哉くんは、音楽一筋にやっていくのが今は大事ですから」
言葉が上滑りしているのが分かっていても、私はそう言わなくてはならなかった。
「アンジェは、一流アーティストです。彼女、デビュー仕立てなのにトップを走ってる。同世代にそういう相手がいたら、一哉くんにはいい刺激です。いろんな影響を受けて、それでもっと殲滅ロザリオがよくなれば、それはそれですごくいいことです」
一息にそう言うと、呆気にとられていたらしい坂崎さんは、軽く頭をかいた。
「涼さんがそう言うならいいけれど、いちおう事実確認しておいたんだ」
「はい」
「トーイとアンジェが一緒に出かけたりしたというのは事実だ。でもトーイは熱愛ではないとはっきり言っている。それは当然そうだろう、君がいるんだから。でもアンジェに音楽のことで相談し合っていて、それの流れで友人として遊びにいっただけだということだ」
「はい」
「大丈夫か?」
「大丈夫です。音楽のことは、同業者が一番力になりますから」
そう言っている自分が自分じゃないみたいだった。
「分かった。とりあえず、このネタは内々にもみ消している。涼さんは分かっていると思うけど、他言無用だ」
「はい」
安心してもらうよう、大きく頷く。
と同時に、向こうから廣瀬さんが歩いてくるのが見えた。
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