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「仕方ない場合って何? 一哉くんの仕方ないって、私と過ごした空間、あんなに大事にしてたのに、仕方ないですませられるものだったんだ?」
「だからさ、アンジェとは何もないって言ってるだろ、ただバンドのスコアとりにいくついでに部屋みたいっつーから」
「それで入れちゃうんだ? で、出てくる時はあんなにべったりくっついて。しかも夜も」
「あのさ、涼、なんでそんな頭ごなしなんだよ」
「頭ごなし? 自分の胸に手をあてて考えてよ。カフェでも楽しそうで、いかにもサングラスしたりして、何、もう海外の一流アーティスト気取りなわけ?」
とまらなかった。
言っていいことと言って悪いことの区別もつけられないほどに、私は一哉くんを問いつめていた。
「なんだよそれ」
さすがに癇に障ったのか、一哉くんの声が低くなった。
怒らせたと分かっても、私の中にうずまくどす黒い感情はおさまらなかった。
一哉くんのテリトリーに入れるのは、私だけだと思っていた。
でも一哉くんにとって、そのテリトリーに入ることができるのは、私だけじゃなくなってしまった。
「涼、なんでそんな怒るんだよ? あれは本当に一時的っつーか、間違いだよ。あんなべたべた普段からしてねーし、たまたまアンジェが甘えてきたから…」
「甘えてきたから? だからそれを許すの? アンジェは私のこと知ってるの? 一哉くんに婚約者がいるって知ってる?」
「知らない…言ってない」
「だからじゃない。言ってよ、ちゃんと言って」
「いや、別にそこまでわざわざ言う必要ある? 仕事のつきあいだよ、アンジェとは」
「仕事のつきあいで、あんなにべたべたしない!」
「涼、少し落ち着けって。なんだか変じゃねー、そんな怒って」
「怒って? 怒りもするよ。なんで、…なんで入れたの…あの部屋に、私と一哉くんの2人だけのものだった部屋に、他の女なんて…よりによってアンジェなんて…」
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