570人が本棚に入れています
本棚に追加
/230ページ
自分の感情を優先している場合ではない。
めまぐるしく状況が動いていて、私にできることが少ないのは痛手だった。
それが分かるから、アンジェに会うことで動揺する自分を抑えこめた。
それがせめてもの救いだった。
「高梨さん、とりあえずオレが運転するよ。だからアンジェのマネとの連絡とかはよろしく」
私の運転がいまだ下手なのは、カオルさん達から皆にバレていた。
車内でアンジェのマネージャーと連絡をとりあいながら、成田国際空港へひた走る。
ニューヨークから直行便があるとはいえ、約13時間もの長旅だ。
アンジェをすぐにホテルへ届けなければならない。
食べたいものや水のメーカーなど、こだわりがあるものはすべて用意し、寛げるように手配をし終えた時には、すでに成田国際空港のターミナルへとさしかかっていた。
私たちが着いたのを見かけ、成田国際空港に常駐待機していた報道陣が動き出す。
特にスキャンダルについてというより、アメリカからトップアーティストが来日したということの報道用だった。
長い通路の出迎え口に行くと、すでにアンジェのファンらしき一般人たちが出待ちしている。
特別なパスで搭乗ゲートまで向かい、飛行機の着時間まで待つ。
そのただ待つだけの短い時間、ふっと忍び寄る嫌な感情を抑え込む。
アンジェとはただの友達だと言った一哉くんの言葉を信じようとするのに、どうしても揺らぐ想いがあった。
「高梨さん、大丈夫?」
「え?」
「なんかぼーっとしているというか、表情が固いから」
「いや、久しぶりにアンジェに会うので緊張してます」
三科さんに心配されているようでは、この先の仕事に差し支えてしまう。
軽く頭を振って、気を引き締める。
アンジェに会う。
前に会った時と同じように振る舞えばいい。
彼女はただ日本に来るだけなのだから。
しかも短い時間の滞在でも、日本に来ることを楽しみにしているらしいことはマネージャーから聞いている。
最初のコメントを投稿しよう!