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じっと待っていると、粘着的な気持ちが頭をもたげてきそうで、私は空港のだだっ広い通路を端から端まで眺めた。
海外とを行き来する日本人も海外からやってきた白人や黒人もみなゆったりと構えている。
いつかこの長い長い通路を、一哉くんはトーイとして多くの報道陣に囲まれながら歩くときが来るのだろうか。
その時、私は隣にいられるのだろうか。
私は、その時の一哉くんにとってどういう存在になっているのだろう。
この時ばかりは、結婚していなかったことをひどく後悔した。
結婚はそういう契約の類のものではないのに、ひどく一哉くんを縛っていたいと考えていた。
悶々と自分の深い影の中に落ち込んでいきそうな時、ようやく搭乗ゲートから前に挨拶したことの覚えのあるマネ―ジャーに伴われてアンジェが現れた。
その瞬間、報道陣が詰め寄せてたくさんのフラッシュが光る。
アンジェは美しいゴールドの髪をなびかせ、あの写真にあったサングラスをして軽く手を振る。
私と三科さんが近寄ると、アンジェは軽くサングラスを下げて認めると、破顔した。
その美少女の笑顔に周りの報道陣がどよめく。
「Hi,Ryo! 久しぶりネ」
三科さんを紹介する前に、アンジェが軽く駆け寄って私をハグする。
「アンジェ、久しぶり。日本語できるようになったの?」
「Yes,一哉が教えてくれた」
ドキリ、とした。
トーイという呼び方じゃない。
「リョウ、その人はダレ?」
「あ、ごめんなさい。彼は、殲滅ロザリオのマネージャー、三科さん」
私から離れて、アンジェは三科さんにハグする。
少し緊張しているらしい三科さんは、改めて挨拶している。
「とりあえず、ホテルを用意しています。そちらに」
マネージャーに今後の段取りの話をしながら、歩き出す。
今は目の前の仕事に集中しなくてはならない。
報道陣はずっとアンジェを追いかけてきている。
そこで醜態をさらしたくない。
せめてもの私の矜持だった。
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