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アンジェがお寿司をつまみながら、軽く頭を傾げる。
「あまり好みじゃないかも。お寿司って生の魚を使うのね」
「え、ええ。それにお米もお酢、つまりビネガーに近いものを使っているから…」
「ニューヨークにあるお寿司とは違うのね」
かすかにつまらなさそうに言ったアンジェの、個人的な希望というのはなんだろう。
お寿司はあまり口に合わなかったから、他の食べ物を用意した方がよいのだろうか。
聞こうとしたその時、アンジェはお寿司を脇によけて私をまっすぐ見た。
「私、殲滅ロザリオが好きよ。一緒にやってるとどんどん違う自分が引き出されるみたいでおもしろい」
「そう。それは良かった」
何を言いだすのかと思えば、と私がホッとした時だった。
「私、一哉が好きよ。だから彼が欲しくて誘惑したの」
「えっ」
いきなり話題が飛んでいた。
アンジェは長い足を組んで窓際に寄りかかったまま私をまっすぐ見ている。
その目が笑っていない。
「私、彼とメイクラブしたわ」
メイクラブ。
一瞬英語に慣れてない私はなんのことかと思って、次の瞬間、血の気が下がっていくのが分かった。
彼女は、言ってるのだ。
一哉くんとエッチしたと。
「そ、そう…」
かろうじて声をだす。他に何て言えばいいのか分からない。
「すごく素敵な夜だった。ね、リョウ、彼、私のことまんざらじゃないと思うの。だって、私たち音楽のことを魂の底で分かり合っていて、この上身も心も結ばれたら、絶対一哉にとってもいいと思うの。最強だと思わない?」
その場に根が生えて、身動きがとれないみたいだった。
私は強ばったままアンジェの言葉を聞いていた。
「一哉は日本のような小さな島国だけでおさまるタイプじゃないわ。ねえ、リョウ、お願いをきいてほしいのよ。彼のために」
彼のため。
前にも誰かに言われたと思って、エドのことを思い出す。
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