574人が本棚に入れています
本棚に追加
部屋に戻れば、一哉くんのことを考えてしまう。
アンジェのことを考えてしまう。
そうして、私は自分の立場の弱さや頼りなさを突きつけられてしまう。
そう思うと部屋に入れなくて、ぐずぐずと雨に濡れていた。
濡れて、濡れて、そうして雨とともに溶けてしまえればいいのに、なんてバカなことさえ思っていた。
「涼さん! 風邪引くじゃないか!」
見上げていた空に黒い傘がふっとさされ、私は腕を思いきり掴まれていた。
振り返ると、そこにいたのは、廣瀬カオルだった。
「何やってるの! こんな、こんな…」
絶句したようにカオルさんは言葉を詰まらせると、私をぐっと引き寄せた。
傘が落ちて、私はカオルさんの腕の中にいた。
「雨に濡れながら泣くくらいなら、僕に連絡してくれればいいものを…! とりあえず、乗って」
乗る?
カオルさんは私の肩をさすって暖めるようにすると、自分のフェラーリへと私を導いた。
私はふらふらと覚束ない足元をカオルさんに任せるようにして、車にのりこんだ。
「座席、濡れてしまいます…」
「いいから、とにかく、今タオルはこれくらいしかないけど、体拭いて」
カオルさんがてきぱきと私にタオルを渡して、エンジンをいれた。
すぐに暖かくなった車内とは打って変わって、私はひたすら緩慢とした動きで露出している部分の濡れたところをふき、そうして寒気がのぼってくるのに耐えていた。
最初のコメントを投稿しよう!