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すべてを忘れさせてくれたら
世田谷の一等地にマンションを構えたカオルさんは、エンジン音をふかせて地下の駐車場に入ると、ぼうっとしている私の肩を抱くようにして立たせた。
そのまま私は伴われるようにカオルさんの部屋へと歩き出した。
ふらつく足元に気遣いを見せてくれるカオルさんは、女好きの遊び人らしいのか、らしくないのか、真剣な表情で私のことを気遣ってくれている。
部屋に入った瞬間、ぐらりと傾いだ身体をカオルさんは慌てて抱きとめ、そうして体勢を整えてくれた。
「すみません、本当にすみません…」
何度も何度も謝っていると、ふいにカオルさんがぐっと私を抱きしめた。
「もう謝らないでよ。なんで涼さんが謝らなきゃいけないんだ。意味分からないよ」
「でも、こんな…」
「黙って」
そのままカオルさんは私を抱きしめたままキスしてきた。
分かっていた。
カオルさんの車に乗った時点で、私は彼の誘惑に乗ったということなのだと。
「もう、辛い想いなんてさせないから」
そうカオルさんは言うと、再びキスをしてきた。
それは甘く切なく、優しさに溢れていた。
私が黙って受けていると、カオルさんはそのまま私を玄関に押しつけるようにして、何度も何度もキスを繰り返した。
熱があがってきそうになって、私はキスの合間に喘ぐように息を継いだ。
「好きだ、涼さんが好きだ」
カオルさんがキスの合間に囁く。
「こんな、涼さんが弱ってる時に言うなんて卑怯だけど、それでも抑えられなかった。濡れながら泣いてるなんて、そんな…」
そのまま言葉を続けず、カオルさんは再びキスして、自然に唇を割って舌をさしいれてきた。
その思った以上の熱さに、私は翻弄されるようにしてようやく応えた。
私が追いつくのを待ってくれるといったカオルさんのキスは、一哉くんと同じで甘く、私は陶酔するようにその熱を求めた。
どこまでも優しく、今までの印象を覆すような強引さのないキスに、私はこのままどこかへ引き攫ってほしかった。
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