歯がゆい現実の迫間で

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「涼さんの気持ち、分からなくもないわ。エドは、あの通り仕事人間でしょう? 寝ても覚めても音楽が大好きで、他のことなんて二の次。もちろん付き合い始めは、私との時間も充分にあったけれど、もともと通訳の仕事で出会ったから、オンもオフもあってないようなものだったわ」 「それでよく15年も続いてますね。すごい」 「だって彼、音楽に関わってる時が一番生き生きしてるの、笑っちゃうくらいに。音楽を語らせたら、まるで子どもみたいに目がキラキラするの。そんな彼を見ちゃうとね…」 サオリさんがかるく肩をすくめて笑う。 それはどこか母性に満ちた優しい眼差しで、その時のエドを思い出しているのだと分かった。 「でももちろん、今みたいに初めから落ち着いていたわけじゃないのよ。実際、一度別れてるしね」 「えっ!」 「ふふ、耐えきれなくなったの。24時間、音楽ばかりで。ほかのプロデューサーはもっとバカンスや休みをうまくリフレッシュに使っているのに、彼は私との時間さえつくってくれないって。関心を失ったのかしらって」 「サオリさんから別れたんですか?」 「そう。あっさりしたものだったわ。気持ちはあるのに、一緒にいることが辛い、淋しいっていうのは」 「…分かります」 ふとかつてつき合っていた会社の上司を思い出す。 「でも彼のイメージや意図を一番に翻訳や通訳できるのが私だったから、結局仕事で顔を合わせているとね」 「どちらから?」 「エドよ。気持ちは落ち着いていたけれど、でも嫌いで別れたわけじゃなかったから。時間が経って、諦めたわ。私もエドが楽しそうにしているのを見るのが好きなのね、もう開き直ろうって。別れに懲りたのか、エドも前よりは私との時間をつくるように意識してくれているから、…お互いに、落ち着く距離が少し見えたという感じかしら」 「落ち着く距離…」
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