歯がゆい現実の迫間で

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「そう。お互いがお互いのライフバランスをとる中で、一緒の時間をつくっている、という感じかしらね。私たちの場合、それが一番適した距離感なの」 「サオリさん、サオリさんから見て、私と一哉くんの距離ってどう見えます?」 「そうね、だいぶ近いと思うわ。どちらかというと、トーイくんが涼さんを大好きなのね。それはもうこの1ヶ月で充分なくらい、見せてもらったわ」 くすくすとサオリさんが楽しげに笑う。 「いつだってあなたの気をひいて独り占めしていたいように見えるわ。トーイくんにとって、涼さんがすべてなのね。本人がどこまで意識しているかは分からないけれど」 一哉くんが成長しているのは分かっているけれど、同時にまだ幼い子どものような部分も多くある。 それは、どこか歪でありながら、ほの暗い魅力の部分でもあった。 「どこか危ういわよね、エドはそれが気になっているんでしょうね。涼さんばかりしか見えないと、涼さんを失った時に…失うというのは、男女の別れもあるけれど、彼にとっての涼さんとの心の距離のこともそう…。そうした時に、彼は折れてしまう。一つのことに一途になるのはものすごく強い力を秘めてもいるけれど、同時にとても脆いことでもあるのよ」 「別れなんて…」 「分からないのよ、人の心も人生も。ただ努力をしていくだけなの、できることは。それだって、時に思いも寄らない方向に行ってしまう。気持ちがあっても、環境が影響する時だってある。涼さん、あなた達は、芸能の世界で生きているわ。一般ならいざ知らず、自分たちではどうすることもできない環境に取り巻かれている世界よ。たくさんの人の思惑も、もちろんファンの目も、無数に増えていく世界よ」 「…」
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