573人が本棚に入れています
本棚に追加
「別に脅しているつもりはないわ。ただトーイくんが身を置こうとしている世界がそうだっていうこと。だからって、涼さんのために、トーイくんが音楽から離れることはできない。でしょう?」
「ええ…。彼の生きる世界は、音楽の世界です」
少しずつだけれど、バンドに向き合い、音楽の世界で自分の居場所を確立している一哉くん。
「エドが心配しているのは、トーイくんのひたむきさ。音楽と涼さんと、どちらかに優先をつけなくてはならない時だってある。その時に瞬時に音楽を優先できないようなら、この先、世界では…音楽の業界ではやっていけないわ。むしろ、彼の才能が彼自身を殺してしまう。だって音楽が彼を選んだのだから」
「…」
「トーイくんが危ういのはそこ。涼さんを引き止めておくためなら、彼はあなたのためになんでもやる。もしあなたに頼まれたら、…人殺しだって」
「それは…」
ぞくり、とする。
前に私が一哉くんの母親関係で廃工場に囚われていた時、その犯人を殺す寸前まで殴り、蹴っていた、その狂気を思い出す。
カサノヴァの廣瀬くんに対してもやけに過敏だった。
「例えばよ? そう感じるくらい、彼にはあなたが大事。それはいいことだけれど、いつか板挟みになる。あなたと音楽との間で。少しずつでも、そのバランスをとらないと、あなたもトーイくんも苦しむわ。そのことが音楽に活きることだってあるかもしれないけれど、でも芸能の世界は悠長な解決を待ってくれるほど遅くないわ。今はもうサイクルも早いし、音楽だけのために勝負しに来てるフォロワーは五万といるから」
「…」
最初のコメントを投稿しよう!