歯がゆい現実の迫間で

15/25
前へ
/230ページ
次へ
静かに微笑しているサオリさんに何も言えなかった。 問いかけられた言葉の意味の奥に、私の覚悟への眼差しがある。 小さく張り詰めている空気を破るように息を吐いた。 まるでエドに言われてるみたいだった。 「偉そうにごめんなさいね、涼さんが危惧しているように、世界で勝負するのが簡単じゃないのは、エドを見てると分かってしまうから」 「はい…」 「まあ私自身、こう思えるようになったのも最近だけれど。エドは、今でも音楽が第一。それでも、私には、そういうエドとエドのつくる音楽をひっくるめて好きなのよ。涼さんは、トーイくんに、どうなってほしい? トーイくんとどうなっていきたい?」 トーイとどうなりたいか。 一哉くんとどうなりたいか。 単に一緒にいられたら、なんて無責任な話はできない。 私はまるで鏡のように静かなサオリさんの視線に、そっと目を伏せた。 答えは、たぶんもう出ていた。
/230ページ

最初のコメントを投稿しよう!

573人が本棚に入れています
本棚に追加