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エピローグ
わああっと歓声があがっているのが聴こえる。
待っている人たちがいる。
引っ張られながら必死で走る。
裾がジャマをしてもつれそうになった。
その瞬間、私は抱き上げられた。
私は軽く悲鳴をあげると、相手にしがみついた。
「抱えて走った方がはえー」
「もう、なんで重なるの」
「しゃーねーじゃん、これでもスケジュールぎりぎり空けてもらったんだから」
「丹野さん恨んでやる」
「ダーメ」
「なんで」
「恨むのも全部、関心はオレだけにしとけ」
「やきもち焼き」
「うっせー」
真っ白なウェディングベールが風になびく。
それを巻き込んで抑えつつ、一哉くんにしがみついた。
たった今、親族だけでニューヨークのセントパトリック大聖堂で結婚式をあげてきたばかりだった。
歴代の有名人の結婚式も行われるほど荘厳な聖堂の中で、一哉くんと愛を誓い合い、ようやく夫婦になって3、4時間しか経ってないというのに。
なのに、すぐにコンサート会場に直行だなんて、なんていう日なんだろう。
一哉くんは会場の裏口に私を抱えて飛び込むと、ようやくおろした。
「走れる?」
「もー私、赤ちゃんいるのに!」
私のペースに合わせて一哉くんが走る。
そうしながら、タキシードを緩めていく。
もう結婚式の余韻から抜けて出そうとしている一哉くんがいる。
淋しいやら頼もしいやら、私は幸福な中で一哉くんの姿を見つめる。
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