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そしてなにより一哉くんが私の存在を守ろうとしてくれていることが大きかった。
それなら、アシマネの私が彼に返せるのは、ただ与えられた今の仕事を真摯にこなして、殲滅ロザリオのトーイにとって心地よく、そして世界進出への夢を叶えるために精神的にも健康の面でも支え続けることだと思っていた。
答えなんて出ない。
エドもすぐにとは言わなかった。
何がトーイの、そして一哉くんのためなのか。
離れることが彼にとってのベストならそうすべきだと理屈では分かっている。
でも恋人として、それは辛かった。
どうしたらいいのか、分からない。
レコーディングでマンハッタンに来て、1ヶ月経とうとしている。
その中でプロデューサーであるエドが判断したことだ。
そう判断されてしまうような接し方をしてきたつもりはなかった。
でもいったん離れた方が一哉くんにとって賢明だと感じられる状態になっている。
それも考えると落ち込んでしまいそうだった。
一哉くんは、出会った頃よりは節度があっても、私と恋人であることを誰かに隠すという頭はない。
そんな必要性を感じていない。
それはとても嬉しいことだけど、それが裏目に出ることだってある。
ひどく何か、胸の奥がもやもやして、その原因不明な感情がもどかしかった。
「涼!」
「一哉くん」
エントランスから出てきた一哉くんは、スタッフたちとすれ違うたびに軽く手をあげて親しげに挨拶しながら軽く走り寄ってくる。
一哉くんは、エドだけでなくスタジオスタッフの間でもかわいがられている。
屈託ない、まだ10代の若者への視線はあたたかい。
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