歯がゆい現実の迫間で

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「探した」 「レコーディングは?」 「休憩」 一哉くんは私を腕に囲うと、ちゅ、とアメリカ式に頬にキスする。 それからすぐに軽く私の唇にキスを落とす。 この数ヶ月で、一哉くんはまた背が伸びた。 前は少し目線をあげるだけだったのに、今は軽く見上げている。 「なに、こんなところで? 顔色悪い?」 「うん、少し調子悪かったから空気を吸いに」 胸の奥に罪悪感を伴った痛みがさす。 嘘をつかなければ、私の動揺なんてすぐ見抜かれる。 「先に部屋帰ってる?」 「ううん、大丈夫。ここでこうしてれば落ち着くと思から」 「そ?」 一哉くんはそっと私を抱き寄せて、頬を私の頭に寄せるようにする。 一哉くんの甘えたい時や私を安心させるようにする時の現れだ。 最近の一哉くんのお気に入りの体勢だ。 どうやら背が伸びたために、首筋に埋めるようにしていた頭の高さが合わなくなったらしい。 でも私もこうされるととても落ち着いた。 一哉くんの外見からはあまり感じられないしなやかなたくましさや体温が心地よかった。 「休憩はどのくらい?」 「少しじゃねーの」 「え? 知らないの?」 「急いで出てきたから」 「ごめん…」 「謝るの癖すぎ」 「ご…う、うん気をつける」 「素直でよろしい」 一哉くんは満足げに笑うと、私の頭の両脇を軽く手で覆うようにして私の顔を上向かせる。
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