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目の前の仕事をしなくては、そう思うのに、全然頭が働かない。
「高梨、お前もう帰れ、な?」
三科さんが、私の肩を揺すぶった。
私の視線がうろうろと目の前の人たちに焦点が合った時、ようやく2人の言葉が耳に入ってきた。
「いえ、仕事、します。だって、〆切寸前、ですから…」
「いいから、もう仕事になんないだろう、そんな状態じゃ」
坂崎さんが少し呆れ気味な様子で私に退室を促す。
三科さんがドアを開けて、帰るよう再三私を説得していた時だった。
「あ、れ。皆さん」
玉城さんの声がして、その後ろからひょこりとカサノヴァのメンツが顔をのぞかせる。
「どうしたんですか?」
玉城さんの声に、私の対処に戸惑っていたらしい二人が明らかにホッとした表情を見せる。
「玉城、悪いが涼さんを帰らせてやってくれ。ちょっとショックを受けるようなことがあってな」
「え、なんです?」
カサノヴァの廣瀬さんがテーブルの上にぽつんと置かれたスマホを見つけて手にする。
「これ」
「ちょっとな、まあ、けっこういい加減なゴシップで有名なとこでもあるから、熱愛とかの信憑性は薄いと思うんだが、写真を見る限りはかなり仲は良さそうでね。ちょっとエドに相談して圧力かけるつもりではいるんだが。ただ…」
坂崎さんが私の方をちらりと見やる。
分かっている。
こんな、嘘か本当か、単なる友達同士のひとときかもしれないネタで動揺している私が、どれだけ情けない姿をさらしているか。
でも相手がアンジェだということが、私には大きかった。
「涼ちゃん、大丈夫?」
さすがに玉城さんが見かねて私の肩を抱いた。
「大丈夫、です。仕事、しないと」
「涼ちゃん、今日は帰った方がいいわ。そんな状態じゃ仕事にならないし…」
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