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「本当に信じてるの? そんなに人の心、変わらない?」
いったい廣瀬さんに何が関係しているというのか。
私と一哉くんの間のことも知らずに、と苛立ちが募り始める。
「何が言いたいんです?」
私の剣呑な声に、廣瀬さんがぐんっとアクセルを踏み込んだ。
「本当は、相当不安なんじゃないの? あんな屈託ないトーイ、珍しいから」
「ああいう一哉くんは、いつでも見てきましたから。お構いなく」
突き放したように言うと、そこで廣瀬さんはようやく小さくくすりと笑った。
その笑みはなんだかあきれ果てているような笑みで、私はカッと怒りがわきおこる。
「あの、廣瀬さんには関係ないでしょう? アンジェは私もあったことありますし、二人とも10代ですから、たまには10代らしく遊びたいときだってあるじゃないですか」
「本当にそう思ってるなら、おめでたいね、涼さん」
「だから、関係ないじゃないですか。そういう言い方やめてください」
怒りとともに不安が増していた。
それが彼の狙っていることだということも分からないほど、私は動揺していた。
「お互い才能もある、外見もちょうどお似合い、年齢もちょうどいい。性格的な相性もよさそうじゃない。そういう相手っていうのは、周りが思うより、磁力のようにひきあうんだ。そういうもんなんだよ」
「廣瀬さん!」
悲鳴のように、私は廣瀬さんの言葉を遮った。
それ以上、聞きたくない。
「涼さん、はなから無理なんだよ」
「何が、何が無理なんです?」
声が裏返る。
聞きたくない。
これ以上、私に事実を突きつけないで。
そう思うそばから、廣瀬さんはえぐるように言葉を重ねてくる。
「音楽業界のことをまだ勉強中で、さっきみたいに仕事すら手につかなくなる。そんなんじゃ、この先トーイとやっていけない。トーイはもっともっと上を目指してる。世界に並び立つなら、その隣に立つのも…分かるだろう?」
「やめてください!」
悲鳴をあげて、私は耳をふさいだ。
これ以上聞きたくなかった。
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