新しい仕事と不穏な気配

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新しい仕事と不穏な気配

帰国してから待っていたのは、レコード会社であるワールドミュージックジャパンでの多忙な時間だった。 マネージャーよりは就業時間が不規則ではなくなったものの、ワールドミュージックジャパンに所属するアーティストすべての宣伝やPR、マーケティングを担当するとなるとそれなりに余裕なんてあるわけがない。 アーティストの数だって、40人以上はいる。 アーティストによっては、レーベルを別につくって所属している場合もある。 それを数えればキリがない。 媒体露出時の立ち会いなど、マネージャー時にかじったことが少しは役に立つものの、それなりに初めての業務が多く、しばらくは自宅と会社との往復で精一杯だった。 2週間を過ぎて、ようやく社内の空気や職場の人間関係に慣れてきた。 簡単な業務であれば一人でもこなせるようになったし、指導してもらっている先輩社員の玉城さんがやり手で理路整然としているせいか、仕事がやりやすかった。 ほぼ広報の業務はどんなことをするのかは把握できたし、後は実践で覚えていくしかない。 マネージャー業務でもなんでも、場数をこなすしか身に付かないことも多い。 でも一哉くんがいないことには慣れない。 そんな日々をかすかに癒してくれるのは、ビールだった。 それを手に、渋谷のマンションの部屋の窓にイスを寄せて座る。 足元までガラス窓がはめられているせいで、今にも下に落ちそうな錯覚を起こしそうになる。 一哉くんと約束したのは、結婚のことだけじゃなかった。 離れている間、連絡はとらないことにしたのだ。 その時間もすべて音楽につぎ込んで、本当に文字通り24時間音楽漬けになる。 ベッドの中で体を重ねている間、一哉くんは少しずつ自分がどうしたいか話してくれた。 レコーディングしているアルバムをもって、全米デビューする。 ただデビューするのではなく、ビルボードランキングトップ10には必ず食い込む。 まずはそれが目標。
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