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「あわわわ……」
「受け取ってくれるよね?」
恥ずかしそうにはにかむ彼の笑顔を見つめ、私は心の中で叫んでいた。
そんなの聞く方がどうかしてる。返せと言われても絶対返すもんですか!えぇ、死んでも返さない!
「も、もちろん!喜んで!」
この日が来るのを、どんなに待ちわびていたことか……
学生時代の女友達は全員結婚し、会社の後輩も次々と寿退社で辞めていく中、焦りと不安で情緒不安定になりながら、私は涙ぐましい努力を2年もの長きにわたり続けてきた。
それは、自分とは正反対の女性を演じるという事。優しさの中に強さを秘め、常に向上心を持ち仕事に取り組む。そんな彼の理想であるキャリアウーマンに少しでも近づける様にと頑張ってきた。その努力が、今、実を結んだんだ。
あぁ……30歳を目前にして、やっと結婚出来る……
感激の涙を流しながら彼を強く抱きしめるも、心にふと過る不安。
そうだ。まだ手放しでは喜べない。いよいよあの事を彼にカミングアウトしなきゃいけないんだ。
ずっと、秘密にしてきたあの事を……
「えっと……雅人(まさと)さん、あのね……」
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