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―――って、言い掛けたんだけど……結局、ヘタレな私はカミングアウト出来なかった。
送ると言う彼を適当に誤魔化し、大きなバラの花束を抱えひとりタクシーで家路につく。
本来なら、待ちに待ったプロポーズに小躍りの一つもしたいとこだけど、あの事を言わなくてはと思うと気持ちがどんより沈んでいく。
別に彼を騙していたワケじゃない。付き合い出した時から言わなくちゃって、ずっと思ってた。でも、それを言えば彼が私の元から去ってしまうんじゃないかと怖くて言えなかったんだ。
そう、決してワザと黙ってたんじゃない。
「はぁ~……」
薬指に光るダイヤのリングを眺め大きなため息を漏らす。
私、吉美田蛍子(よしみだ けいこ)と彼、遠藤雅人(えんどう まさと)の関係は、外資系保険会社の上司と部下。法人営業部門で彼は係長、私は入社3年目の平社員。
この会社に就職した理由は、ただ一つ。結婚相手を探す為。
私は入社してすぐ、直属の上司だった雅人さんに目をつけた。彼は物静かでとても優しい人。ちょっと物足りない感じはしたけど、結婚相手には彼みたいな穏やかな人がいいと、ずっと思っていた……
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