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そこから私の猛アタックが始まった。と言っても、あからさまに迫ったワケじゃない。
さり気なく彼の好みの女性のタイプを聞き出すと、仕事中は元より、飲み会でも猫を被り気に入られる様に振る舞った。
その甲斐あって、出会って1年後にめでたく付き合う事になり、それから2年後の今日、29歳にして、ようやくプロポーズされた。
なのに……
「お客様、到着しました」
「あ、はい。有難う」
タクシーが止まったのは、都心から少し離れた下町。私の家は、アーケード街の中にある惣菜屋さん。
家族は父親のみ。母親は私が2歳の時に病気で亡くなったから全く記憶に残っていない。父親は再婚もせず、男手一つで私を育ててくれた。
その事に関しては感謝してる。でも、私になんの相談もなく勝手にひとりで物事を決めてしまう悪いクセがあり、そのせいで今まで何度迷惑を被ったことか……
「あれ?まだ電気点いてる」
いつもなら10時には寝てるのに……珍しいな。
玄関のドアを開けると見覚えのないスニーカーがキチンと揃えて置いてあり、奥の部屋から父親の楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
こんな夜遅くお客さんが来てるの?
不思議に思いながら居間の引き戸を開けた私の目に飛び込んできたのは、父親と親しげにお酒を飲んでる若い男性の姿。
すると、私に気付いた男性が振り返り、切れ長の目を細め微笑んだ。
「よう!ホタル、久しぶり~」
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