《序章》

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 何十年ぶりかでかつての友人たちに会うと、そのことを強く実感する。 同じ時代、共に体験したことを話しているはずなのに、細部は齟齬(そご)をきたす。 それぞれの記憶を照らし合わせてみると、矛盾点も多い。 人によってはほとんど覚えていないこともある。 本当に同じ思い出を語っているのかと、疑いたくなるほどだ。 それなのに各自、自分の記憶こそが絶対に正しい、と譲らないものだから始末が悪い。  各自がそれぞれ朝霧に覆われた道をさ迷い歩き、おぼろげに見える風景から様々なものを想像していくようなものだ。 かつては確かに見えていたはずのものが、今ではもうぼんやりとしている。  ぼんやりとしている部分は、自分にとって大した記憶ではないのかもしれない。 しかし、別の誰かにとっては、そここそが重要であるかもしれないのだ。 自分には、はっきりとそこを思い出すことができない。
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