第3章

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速水は麻衣子に参考書を返した。 「民法は難しいから、後からゆっくり勉強した方がいいと思うんだよな。 それより、さっき言った標準管理規約や区分所有法に目を通しておくと、電話でお客さんにいろいろ訊かれた時に、全く分からないまま応対せずに済むからな。 電話を取りながら覚えていくのもいいけど、せっかく勉強するなら、ここからやった方が、早くマンション管理の知識を増やせるだろ」 ───なるほど。 「分かりました」 麻衣子は頷いた。 朝の空いた時間は、勉強の時間。 おしゃべりをするために一緒にいるわけではない。 速水もそれを意識していて、早めに勉強の話を持ち出してきたのかもしれない。 ───訊きたかったけど……まあ、いっか。 ひとり暮らしを隠しているわけではないから、速水の耳に入っていてもおかしくはない。 誰から聞いたのかは、少し気になるけれど……。 「区分所有法は研修の時に少し勉強しなかった?」 「あ、はい。薄い冊子のようなものをもらいました」 「もう読んだ?」 「少しだけ……。もう一度読んでみます」 麻衣子は参考書を手に持ったまま、気を引きしめつつ、駅の方へ向かった。
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