第1章

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エレベーターホールへ出ると、忽ち気が抜け、口から息がもれた。 ───疲れた。 これから帰る自宅の中を思い浮かべ、もういちど重い息を吐く。 引っ越しして間もないため、部屋の片隅には段ボールが積まれているのだ。 ───ご飯はどうしようかな。 お腹は空いたが、帰ってから自炊する気力が残っているかどうか。 だらんと首を垂れたところで、後ろから「笹木」と呼ばれた。 ハッとして振り返ると、オフィスの出入口の辺りに、速水が立っていた。 忘れ物でもしたのだろうか。 それとも、何か伝え忘れがあったのだろうか。 「は、はい。なんでしょう?」 どぎまぎしながら訊くと、彼は不意にふわりとほほ笑んだ。 「暗くならないうちに、気をつけて帰れよ」 それだけ言うと、踵を返す。 麻衣子の返事も待たずに、速水はオフィスの中へ消えて行った。
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