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エレベーターホールへ出ると、忽ち気が抜け、口から息がもれた。
───疲れた。
これから帰る自宅の中を思い浮かべ、もういちど重い息を吐く。
引っ越しして間もないため、部屋の片隅には段ボールが積まれているのだ。
───ご飯はどうしようかな。
お腹は空いたが、帰ってから自炊する気力が残っているかどうか。
だらんと首を垂れたところで、後ろから「笹木」と呼ばれた。
ハッとして振り返ると、オフィスの出入口の辺りに、速水が立っていた。
忘れ物でもしたのだろうか。
それとも、何か伝え忘れがあったのだろうか。
「は、はい。なんでしょう?」
どぎまぎしながら訊くと、彼は不意にふわりとほほ笑んだ。
「暗くならないうちに、気をつけて帰れよ」
それだけ言うと、踵を返す。
麻衣子の返事も待たずに、速水はオフィスの中へ消えて行った。
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