6661人が本棚に入れています
本棚に追加
「エレベーター、ボタン押し忘れてるわよ」
「えっ!」
のけ反って驚くと、ハハハと笑われる。
「疲れてるのねー、3課は今、大変だからねえ」
前任者のことを言っているのだろう。
麻衣子は「……そのようですね」と返した。
「山本さんのこと、聞いた?」
「あ、はい。突然辞められたことは聞きました」
黒田は眉をひそめ、「そうなのよー」とさも迷惑そうに言った。
「3課はてんてこ舞いよ。まったく……あ、笹木さん、ちょっと時間ある?」
「はい、なんでしょう?」
黒田は小柄な体を麻衣子に寄せた。
赤いルージュを引いた艶のある唇から、小さな声がもれる。
「男の人は話してくれないだろうから、私がいろいろ教えてあげる」
そう言って彼女は、ふふ、と笑った。
最初のコメントを投稿しよう!