第1章

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「エレベーター、ボタン押し忘れてるわよ」 「えっ!」 のけ反って驚くと、ハハハと笑われる。 「疲れてるのねー、3課は今、大変だからねえ」 前任者のことを言っているのだろう。 麻衣子は「……そのようですね」と返した。 「山本さんのこと、聞いた?」 「あ、はい。突然辞められたことは聞きました」 黒田は眉をひそめ、「そうなのよー」とさも迷惑そうに言った。 「3課はてんてこ舞いよ。まったく……あ、笹木さん、ちょっと時間ある?」 「はい、なんでしょう?」 黒田は小柄な体を麻衣子に寄せた。 赤いルージュを引いた艶のある唇から、小さな声がもれる。 「男の人は話してくれないだろうから、私がいろいろ教えてあげる」 そう言って彼女は、ふふ、と笑った。
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