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ー6ー
席に戻ると、石田が声をかけてきた。
「あ、一哉。笹木ちゃんになにを言って来たの?」
「別になんでもねえよ」
ごまかすと、
「ふーん」
意味ありげな顔を向けられた。
「なんだよ」
ムッとして睨みつけたが、石田は気にせず、明るい調子で言う。
「ねえ。笹木ちゃん、いい子で良かったね」
「あ? まあ……、真面目だよな」
石田が麻衣子のどの部分を見て「いい子」と判断したかは知らないが、否定はしない。
仕事を覚えようと、一生懸命ノートをとる姿には感心させられた。
「一哉は笹木ちゃんが相手だと穏やかだし、課の雰囲気も良くなったよね」
山本に対する態度と比較しているのだろう。
速水が彼女を避けていたことは、会社の人間ならほとんどが知っている。
そのせいで、まわりに気を遣わせてしまっていたことも、自覚している。
でも、どうしようもなかった。
あの女───。
嘘つきで無神経なあの女と、同じ課で働くことが、苦痛だった。
だから、彼女が勝手に会社を辞めた時、腹も立ったが、同時に、安堵もしていた。
もうこれで、あの女と関わらなくていい。
そう思うだけで、心が楽になった。
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