第1章

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───言いたかった。 一緒にあの頃を振り返って、盛り上って。 でも、言えなかった。 想像だけがふくらみ、むなしくなった。 真司の深刻な顔が思い出される。 「はっきり聞いたわけじゃないけど、きっと麻衣子は、“いっちゃん”という男の子と、子どもの頃に遊んだことぐらいは覚えてると思う。 母が写真を残さなかったから、顔はぼんやりしてるだろうけど。 でも俺は、それでいいと思ってるんだ……今は。 もし、麻衣子が一哉のことを…… “いっちゃん”のことをはっきりと思い出したら、そしたら、『あの日』の記憶も、戻ってしまうかもしれないから……」 真司はそれを恐れているようだった。 13年前の、あの日。 麻衣子がつらい体験をした、あの日。 速水が彼女に会った、最後の日。 「あの時からずっと、苦しんできたんだ……麻衣子は」 真司の言葉が、月日と共に薄れていた速水の罪悪感を呼び戻す。 もし、麻衣子があの日のことを鮮明に思い出したら。 俺は………許してもらえるだろうか。 苦い記憶が、速水の口を閉ざした。 「巡回に行って、そのまま直帰します」 デスクの上を片づけて、速水は立ち上がった。 課長が「おう」と応じる。
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