第1章

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パソコンを見ていた石田が、心配そうな顔を向けた。 「大丈夫? 引き継ぎに手がかかるから、大変だろ。もっとこっちに仕事回しなよ」 言い終わるやいなや、椅子から腰を浮かせ、速水のそばへやって来る。 「あー、ほら。こんなの家に持って帰らない」 速水がバッグへ入れようとした書類を、石田は素早く奪い取った。 「おい」 「いーのいーの。俺がやっておくから」 「おまえだって、仕事たまってんだろ」 「あのさ、俺、一哉と違って、できる男だから」 石田は書類のない方の手を腰に当て、ぐいと胸を張った。その姿に、ふ、と笑みがこぼれる。 「……悪いな」 「なにそれ。もっと俺を頼ってよ。同期だろ? ねえ、他にもなんか持ち帰ろうとしてないよね」 そう言って速水のバッグの中を覗きこんだ石田は、ふとある一点に目を止めた。 「これなに?」 浅い内ポケットから、黄色い2本の足がぴょこっと出ている。
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