第1章

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「ああ、これ」 速水はそれを引っ張り出した。真っ赤な服を着た、黄色い猫が顔を出す。 「キーホルダーか。こんな可愛いの、どうしたの?」 「友達から貰った」 「ふーん」 石田は怪しむような目を向けた。 「なんだよ」 「彼女からじゃないの?」 「……あ?」 速水は顔を歪ませ、キーホルダーをバッグへ押しこんだ。 「んなわけねーだろ」 苛立ちを含んだ声を出すと、石田が呆れた顔をした。 「一哉ってば、すぐムキになるよね。もういいかげん……」 「その資料、よろしくな」 石田の話を遮るように言い捨て、素早く身を翻す。 もやもやした気持ちのまま、逃げるようにエレベーターに乗りこんだ。 石田の言いたいことは分かっている。 「もういいかげん、過去を引きずるのはやめたら?」 分かってる。自分でも、そう思っている。 でも───。 会社の外へ出ると、 心にたまった膿を吐き出すように呟いた。 「……もうこりごりなんだよ、女は」 朝よりも冷たい風が、速水の短い髪を揺らした。
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