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「ああ、これ」
速水はそれを引っ張り出した。真っ赤な服を着た、黄色い猫が顔を出す。
「キーホルダーか。こんな可愛いの、どうしたの?」
「友達から貰った」
「ふーん」
石田は怪しむような目を向けた。
「なんだよ」
「彼女からじゃないの?」
「……あ?」
速水は顔を歪ませ、キーホルダーをバッグへ押しこんだ。
「んなわけねーだろ」
苛立ちを含んだ声を出すと、石田が呆れた顔をした。
「一哉ってば、すぐムキになるよね。もういいかげん……」
「その資料、よろしくな」
石田の話を遮るように言い捨て、素早く身を翻す。
もやもやした気持ちのまま、逃げるようにエレベーターに乗りこんだ。
石田の言いたいことは分かっている。
「もういいかげん、過去を引きずるのはやめたら?」
分かってる。自分でも、そう思っている。
でも───。
会社の外へ出ると、 心にたまった膿を吐き出すように呟いた。
「……もうこりごりなんだよ、女は」
朝よりも冷たい風が、速水の短い髪を揺らした。
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