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突然出てきた教育係の裏話に、麻衣子は戸惑った。
それを持ち出した黒田の様子が愉しげなのも、気になった。
しかし、円満な会社生活を送るためには、聞かせてもらうしかない。
驚きのあまりすぐに声がでなかった風を装い、麻衣子は目を見開いてから言った。
「……へえ、それは、すごい偶然ですねえ」
いかにも芝居じみた口調になってしまったが、黒田は不自然に思わなかったのか、「そうでしょ?」と語尾を上げた。
「私もね、山本さんから聞いた時はすごくびっくりしたの。ドラマみたいね、ってみんなと話してたのよ」
山本が“みんな”に話したのか、それとも黒田から“みんな”に広められたのか。
気になるところだが、そんなことを堂々と訊けるほど心臓は強くない。
麻衣子は余計な考えを払いのけ、「ホントですね」と相槌をうった。
「うん。でもねえ、過去に何があったか知らないけど、速水くん、山本さんに冷たいのなんのって。
まあ、大人だから、仕事の話はちゃんとするのよ。でも、それ以外は完全に無視って感じで。
3課の人たちなんて、すごく気を遣ってたと思うのよねえ」
想像するだけで、気が滅入った。 特定の人に対して冷淡な態度を取る人がいると、その場の空気は悪くなる。
黒田が「ピリピリ」と表現したのもうなずける。
山本が引き継ぎのために今も残っていたとしたら、自分もそんな重苦しい空気を吸っていたのだろうか。
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