6661人が本棚に入れています
本棚に追加
「速水くん、悪い子じゃないのよ。仕事もできるし、まわりに気遣いもできる人。
私、今までたくさん恋愛したし、いろんな子から相談されたりもして、男の人を見る目だけはあるの。
だから、その人の人柄も、言葉や仕草から、誰を想ってるのかもだいたいは分かるわ。
速水くんは、まだ山本さんのことが好きなのよ。でも、何か許せないことがあって、心を閉ざしてるんだと思う。好きな相手に冷たくせざるを得ないほど、彼も追い詰められていたのよ。
自分の気持ちに正直になれないなんて、本当にかわいそうな人よね」
いつの間にか、黒田の話に聞き入っていた。
恋愛経験が乏しい故に、かねてから経験豊富な人に尊敬の念を抱く傾向がある。そのせいか、彼らの話は説得力をもって麻衣子の耳に届くのだ。
───そっか、速水さん、前任者さんのことが好きなんだ……。
「じゃあ、本当は今もお互いに想ってるんですね」
「ええ、そうだと思う。でも、想いが通じ合う前に、山本さんの心が折れちゃったのね」
なんという悲しい結末なのだろう。
山本が辞めてしまったことで、速水は自分を責め、苦しんでいるかもしれない。
「山本さん、それで辞めちゃったんですね……」
物憂げに言うと、黒田は
「そんなの、理由にはならないけどね」
と、急に厳しい口調になった。
最初のコメントを投稿しよう!