第1章

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「山本さんの前の子が病気になって、退職することになってね。去年の4月…5月だったかな、急遽雇われて来たのよ。次の社員が来るまでのつなぎとしてね。 山本さん、速水くんには冷たくされてたけど、綺麗で愛想もいいし、私たちとは仲良くやってたんだけどね……」 「病気」という言葉に気を取られ、そのあとは耳に入らなかった。石田の恋人の話を思い出したのだ。 しかし、石田の名前を出して確認するのは(はばか)られた。 「山本さんの前の方って、石田さんの恋人のことですか?」 と訊いて、 「えっ、石田くんの彼女って、病気なの?」 なんて展開になったらどうするのか。 その場合、もれなく”みんな“に知れ渡る可能性だってある。それだけは避けたかった。 ところが、ためらい黙りこむ麻衣子に、黒田は告げた。
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