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電車を降り駅の外へ出ると、辺りは薄暗くなっていた。ひんやりした風が体に当たり、麻衣子は肩をすぼめた。
会社を出てからずっと、黒田の話を思い返していた。
衝撃的な内容に不安も抱いたが、黒田の言うように、麻衣子は3課の現状を理解し、頑張っていくしかない。
ただ───、
「おまえが心配することは何もねーから」
優しげに話す速水を思い出すと、切なくなった。
たびたび笑顔を見せてはいたが、初日で緊張している新人のために、無理をしていたのかもしれない。
本当は目が回るほど大変で、心に深い傷を抱えているはずなのに。
───速水さん、つらいだろうな……。
感傷にひたるうちに、駐輪場へ到着した。
朝はちらほらと隙間があったそこは、仕切りの枠が見えなくなるほどたくさんの自転車で埋め尽くされていた。
うんざりした気分で足を踏み入れたが、思いのほか自転車はすぐに見つかった。
赤い服を着た黄色い猫が、自身の存在を主張するかのように明るい光を放っていたからだ。
自転車のかごにぶら下げられたキーホルダーは、反射材を使用しているらしく、小さいながらもその力を存分に発揮していた。
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