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広い土のグラウンドの上に立っていた。
この場所には見覚えがある。おそらく、兄の真司が小学生の頃に、野球の練習をしていたところだ。
野球チームの少年たちも、お喋りをしたり、手作りの人形をくれたりした大好きなおばさんも、そして真司も、今はここにはいない。
たったひとり、グラウンドの真ん中で、麻衣子は蒼天を仰いでいた。
空にはふわふわした大きな雲がひとつ、ぽっかりと浮かんでいた。
その上で、母が麻衣子を見ながら懸命に口を動かしている。
何かを必死に伝えようとしているが、こちらには全く声が届かない。
しばらくすると、母は話すのをやめて、雲の内側に忽然と姿を消した。
「あっ、お母さん!」
麻衣子は悲痛な声をあげた。ところが、母は時間を置かずに再び顔を見せた。
彼女は安堵する娘に向かって真っ直ぐに腕を伸ばすと、突然パッと手を開いた。
ひらひらと、紙吹雪のようなものが舞い落ちてくる。
それらは緩やかな風にのり、瞬く間に麻衣子から少し離れた場所に散らばった。
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