第2章

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もともと真司は、麻衣子のひとり暮らしに反対だった。 だが、妹の意志が固いことを知ると、いつしか彼も折れ、物件を探してくれるようになった。 やがてここならばと勧めてくれたのが、今のマンションだった。 真司の家から電車で数駅の場所にあるのと、隣の敷地に大家さん一家が住んでいるのが、決め手となったようだった。 ただひとつ、彼が気にかけているのが、駅までの距離だ。 「今日も早く出るんだろ? ここに居れば、もっとゆっくりできるのに」 兄の家は駅から近く、便利なのだ。 そこを敢えて出た身としては、ここに住むメリットのひとつでも挙げたいところだが、すぐには思いつかなかった。 諦念を浮かべたところで、ふと言い忘れていた情報を思い出す。 「あっ、そうだ。駅の駐輪場に、月極めの場所があってね。そこが空けば朝もゆっくり停められるから、大丈夫だよ」 安心させようと言ったつもりが、真司は冷静に核心を突いてきた。 「そこ、いつ空くの?」 「は……半年ぐらい、先……?」 曖昧な答えになった。 次の募集がいつあるのか、ちゃんと確認したわけではない。 電話の向こうから、大きなため息が聞こえてくる。
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