第2章

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鮮やかな青色の、スポーツタイプの自転車。 ───あの自転車、速水さんの─── と、思いかけたところで苦笑した。 いやいやそれはないでしょう。そう心の中で否定する。 同じような自転車は、どこにでもゴロゴロしているはずだ。 よく似たそれを速水のものと思いかけたことが、誰かに知られた訳でもないのに妙に恥ずかしかった。 爽やかな風を浴びながら自転車を漕ぎ、7分ほどで駅の裏手にある駐輪場に到着した。 ドキドキしながら中を覗いたが、速水の姿はなかった。 ホッと胸を撫で下ろし、昨日自転車を停めた辺りまで、ゆっくりと進んで行く。 速水のものらしき青い自転車は、まだ置かれていなかった。それを確認したところで、はたと気づく。 自分が昨日停めた場所を、明確には覚えていないということに。 駐輪場には番号が振ってあるわけでもなく、白い区切り線が引かれているだけだ。 麻衣子は首を傾げた。 「そこ、俺の場所なんだけど」 などと堂々と言い切るあの男には、分かるのだろうか。 ───もしや、勝手に目印を? 疑念を抱き、思わず身を屈めて目を皿にする。 しかし、それらしきものは何も見当たらなかった。
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