第2章

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“ゲン担ぎ男”の謎に気を取られること、およそ30秒。 麻衣子は人の気配で我に返った。 一瞬ヒヤリとしたが、視界に入ったのは制服を着た快活そうな女の子。部活で使うのだろう、大きなスポーツバッグが自転車の籠からはみ出している。 せかせかと歩く女の子を見て、麻衣子も再び足を動かし始めた。 とりあえず、ここ周辺からは遠ざかろう。 麻衣子はそこからかなり離れたところに自転車を停めた。 なんとなく、速水の場所の近くに置く気にはなれなかった。 利用者シールを購入していると、駐輪場に昨日の親子が入って来た。 チャイルドシートから降ろされた男児は、今日はおもらしをせず、ご機嫌そうに『こいのぼり』を歌っている。 微笑ましい光景に目を細め、自転車にシールを貼りに戻った時だった。 不意に歌うのをやめた男の子は、母親を見上げて駐輪場全体に響きわたる声を出した。 「ママー、おしっこ!」 麻衣子が目を見張るのと同時に、母親が勢いよく下を向く。 「……はぁっ?」 怒りと呆れの混ざった声を聞くなり、麻衣子は逃げるように駐輪場を飛び出した。
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