第2章

13/33
前へ
/1056ページ
次へ
「今どこにいる? 電車には乗れた?」 昨日のこの時間は何も訊いてこなかったのに、今日は心配になったのだろうか。 そういえば、母もよくこんなメールを送ってくれたな、と思い出す。 それがどんなに幸せなことかも解らず、煩わしく思っていた当時の自分が情けない。 麻衣子はすぐに返信した。 「まだ乗ってないよ。今、コンビニでコーヒー飲んでる」 きっと安心したのだろう、少し待ったが返事がないため、麻衣子はスマートフォンをバッグに戻した。 再び参考書を開き、理解できないまま読み進める。「瑕疵」「心裡留保」「諾成契約」。残念ながら、漢字すら読めない。 頭を抱えながら、数分が経った頃だった。 隣の椅子に、誰かがドカリと腰を下ろした。椅子の足が、ギシッと苦しそうな音を出す。 他にもたくさん空いているのに、わざわざすぐ隣の席に座る人。 そんな人物は限られていると思った。 ───なんなの、もう。 うんざりした面持ちで首を動かした麻衣子だったが、相手を見た瞬間、大きく目を見開いた。
/1056ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6666人が本棚に入れています
本棚に追加