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スカート越しに、男の手の感触が伝わってくる。
咄嗟に、麻衣子は椅子を引いて逃げようとした。ところが、どういうわけか少しだけしか動かない。下げられない。
下方を見ると、いつの間にか片足で椅子をがっしり押さえられていた。
瞬く間に、全身から血の気が引いていく。
「やめて……!」
精一杯に出した声は、ひどく掠れていた。
男の顔に、余裕の色が浮かぶ。
「みんな、他人には結構無関心なんだよね」
売り場の方をチラリと見て、彼は言った。
「それに、これだけ距離が近いと、恋人同士に見えるんじゃないかなあ」
男は自分の椅子を動かし、さらに距離を詰めてきた。
───やめて!
今度は声が出なかった。
助けを求めようと、上半身を色々な角度に動かしもがいてみるが、大きな体に阻まれてうまくいかない。
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