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詩乃はうつむいたままだ。
詩乃はあれ以来、妙に元気な様子で話しかけてくる。
本当に気を使っているのは詩乃なんじゃないか、って思う。
そう。なにも解決していない。
佳奈の見ていた悪夢も無くなったわけじゃない。
愛理香は目覚めたけれど、学校へはまだ出てきていない。
駅の飛び込み事件だって、何か進展したわけじゃない。
むしろ腕が発見されて現場は混乱しているらしい。リコ情報だけど。
過去の事件だって、何一つ解決していない。
わたしとリコは数日前から幽体離脱体質になった。
詩乃は、それが全部自分のせいだと思っているようだった。
「詩乃のせいじゃないよ。一緒に解決しようって言ったじゃん?」
そう言ってわたしは前の席の肩へ手を伸ばした。
詩乃は小さく頷いた。
「そうですよ、詩乃。
まずは沙織さんとリコさんの幽体離脱についてなんとかしようってことで」
北島がハンドルを切って駐車場へ車を入れた。
妙に派手な看板の中華料理屋だった。
「ここ、中国人がやってる店なんですけどね、旨いんです。
しかも安い」
そう言って親指を立てた。
「奢りますよ、二人とも」
詩乃は口元だけ笑って言った。
「接待費で、ね」
「だから、それは言わないでくださいってば、詩乃」
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