第1章

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「詩乃さん、やめてください。僕をもてない男みたいに言うのは」 詩乃がいたずらっ子のように笑う。 「ほら、わたしのことを、さん付け、で呼んだ。 そんなことしないのに」 そういう笑顔をわたしは見たことが無い。 詩乃はクラスでは大人しくて物静か。 というか、暗い。 そんな笑顔をする詩乃を見ていたら、なんだか妙に悲しくなった。 「仲、いいんだね、詩乃と北島さん」 詩乃が振り向く。 「違う違う。 シノはね、シュンイチの患者。 それから研究対象。 それから金蔓?」 「ちょ、カネヅルはやめてくださいよ」 慌ててシュンイチが否定するように左手を振る。 「僕は病院の給料以上のものは貰ってませんから」 「はいはい。そう言えって父に言われてるもんね」 詩乃は無表情でつぶやいた。 北島は困った顔で運転を続けた。 「お父さんも、詩乃さんと一緒に暮らせるようになりたいんですよ」 その言葉を無視するように詩乃が再びこちらを振り向く。 「沙織も嫌だったら断っていいからね。 研究とかなんとか言いながら、シュンイチがしてるのは、シノの病気を治すための仕事なだけなんだから。 沙織を利用したいだけかもなんだから」 利用、という言葉が冷たく聞こえた。 「別に大丈夫だよ、詩乃。 それにわたしだって関係なくないし」 「うん、そうだよね。なんかごめん」 詩乃が急に元気なくうつむいた。 「違う違う、詩乃のせいじゃないってば。 別にすぐ起きようと思えば起きられるんだし。 困ってない、困ってない」
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