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「よっしゃあ!詠唱終わったぜ!」
俺はアンフィスバエナの幼龍に向かってそう叫んだ。
幼龍とは言っても、頭と尾にあるそれぞれの頭部が噛み合って車輪のようになり、こちらへ向かって回転してくる胴体は、建物の2階は優に越える高さだ。
数は2体。すでに翼は破壊しているので、空を飛ぶことはできないが、高速で回転を続けるその巨大な胴体を、一体はゲンが手にした赤い太刀で、もう一体は氷の魔王アトレクスが、目の前に唱えた氷の楯で受け止めている。
町の地下に隠されていた洞窟に、俺達はやって来ていた。
薄暗い地面には、蛇が吐いた猛毒が、まさに毒々しい紫色に広がっている。
俺は、地上へと続く細長い排気パイプのひとつによじ登った。
このパイプは、曲がりくねりながら町の至る所へと繋がっていて、アンフィスバエナの毒の霧を、意図して町の人間に吸わせる仕組みになっていた。
ヒーローとは常に、誰よりも高いところにいるものだ。
俺はパイプによじ登ると、アンフィスバエナの目線の高さにあった足場にでんと立つ。
「おーし、これで最後だ蛇ちゃんっ、よくも今まで町の人達を苦しめてくれたなあっ!俺様の超絶最強呪文で、あーっという間に地獄へ送ってやるぜぇ!」
叫ぶ俺の背後には、まばゆい金色の輝きを放つ光の輪、通称“シャイン・ラック”が4個、俺の勇姿を讃えて煌めいている。
俺のカッコ良さを演出するために、寝ないで考えた光の魔法だ。
ちなみに、横向きにすれば棚がわりにもなる。まさに一石二鳥というわけだ。
俺は、最後のキメ台詞を叫ぶ準備に入った。
特に邪魔になっていた訳ではないが、額の真ん中で2つに分かれている前髪をかきあげる。
…………俺、カッコイイ。
「この世にはびこる魔物、魔王、帝王、悪霊。それからえー……っと、とにかく全部まとめてこの天才創呪師ヒューゴ・エーシュ様がけちょんけちょんに」
「おい早くしろ!」
「エーシュ、急いで!」
せっかく、前から考えていたキメ台詞を、ゲンとアトレクスが同時に止めた。
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