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「で、その極東の本屋さんが、なんでこんな山の中にいるんだ」
「お話を聞いていただけると?」
店長は腕を組んだ。
「聴くだけだ、街に帰ったら酒の肴にする」
ミヤコシは笑った。いまやミヤコシには昼間のふらふらとした様子はなく、形の崩れたスーツ姿でむしろ堂々としていた。
「それはコンテンツ屋として光栄です」
ミヤコシがぼくらに聞かせたのは、面白くも胡乱な話だった。
ミヤコシがこの山に来たのはその肩書き通り、『商材の調達』が目的だった。彼の仕事はリーダー端末に配信する新刊の素材を調達すること。つまり未だネットワークに載せられていない物理メディア――紙の本を収集することだ。
「たとえば、リコ君。きみがさっき読んでいた本。あれには元のテキストデータがあり、そこにエンジニアが音をつけ、VRアーティストが映像をつけている。うちはそうやって演出豊かな書籍を作り、きみのリーダーに配信しているんだ」
スワコ・ブックマークスはほとんどあらゆる紙を収集対象としていた。ぼくらが売っているような絵本や小説、雑誌や画集の古本だけでなく、ポスター、フライヤー、パンフレット、調査レポート、故人の手記。とにかく、なんでもだ。
ある日ミヤコシは仕入れた物理メディアの品定めをしていた。売れるような書籍にできるかどうかを判断して、制作部門に送るためだ。その中に古い日記帳があった。
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