第1章

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歩きながら携帯で検索したところによると、あみだ池はあみだ池筋の途中、地下鉄西長堀駅のほど近く、和光寺の境内にあるようだった。 歴史もあり、大阪の名所のひとつに数えられているようなのに、実際に行ってみると、どこにあるのかよくわからない。それらしい寺はあるが、四辺を高い塀で囲まれていて、入口らしい場所にもシャッターが下ろされていた。 健介は建物の周りをほぼ一周してから、ようやく裏口らしい小さな門を見つけたが、門は開いてはいるものの、前に木製の低い柵が置かれてあり、果たして勝手に入ってもいいものかどうか、二の足を踏んでしまう閉ざされ具合だ。……でも、お寺なんだし、立ち入り禁止とかも書かれてないし、入ったらダメってことはないはず……!と、意を決してこわごわ足を踏み入れる。 門を通り抜けてから何歩もいかないうちに、向こうからスーツ姿の男が歩いてくるのが見えた。こちらに視線を向けられる気配に、……敷地内に入っているのを見咎められるのか、と、体を固くする。 「あ、ちょっと」 予想通りというべきか、声をかけられて、……うわ、やっぱ、入ったらダメだったか……!と、謝って回れ右する準備を始めたところだった。 「人間?」 ……え? ニンゲン?って声をかけられた? スーツ姿の男は立ち止まり、同じく立ち止まった健介を不躾にじろじろ見た。 「ここの門、いつもは外から見えないはずだけど、……もしかして手形持ってるの?」 ……手形? 「新聞切り抜いて貼ったみたいなやつ」 その言葉にはっとして、急いでポケットに手を入れる。さっきポケットに入っていた「手紙」、これのことだ、この人は何か知っているんだ……! 男は、健介の手から紙をさっと抜き取って躊躇なく開き、じっと眺めていたが、「ホンモノだな」と呟いて、それからひょいと肩を竦めた。 「人間に手形出すなんて、全く、何考えてんだろうな、アカネも」 「え?」 「なんで?なんでこの紙を持ってるの?」 「えっと、これ、ポケットに入ってて、あの、さっき鞄をひったくられて、そのときに入れられたみたいで、それで来たんですけど――」 「ひったくられた?」 健介の言葉に、男は目を見開いて、それから何事か考えるように視線を左右に動かしたが、 「……フーン、……よっぽどきみに来てほしいみたいだな、アカネのやつ」 「あの……アカネって……」 「ちょうどよかった」
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