第1章

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 トランボは過去にマッカーシー上院議員によって、アカ呼ばわりされ、赤狩り旋風がアメリカに吹き荒れていた時代に、地下に潜伏して偽名で作品を書いていた時期があります。あのオードリー・ヘップバーン主演、ウィリアム・ワイラー監督の名作「ローマの休日」もトランボの脚本作品であることが後に明らかになっています。他の代表作としてはスタンリー・キューブリック監督の「スパルタカス」、スティーヴ・マックィーン主演の「パピヨン」などがあります(ぼくのうろ覚えで申し訳ありませんが、トランボは偽名で〈黒い牡牛〉という映画の脚本を書いたことがあります。ぼくは子供の頃テレビで見た覚えがあるのですが、この作、見事な脚本を評価され、アカデミー脚色賞を受賞したのですけれど、晴れの授賞式に当の脚本家らしき人物はとうとう現れなかった。まだ赤狩りの旋風が吹き荒れていた頃で、地下に潜伏中のトランボは授賞式に出たくても出ることができなかったのです)。自由の国アメリカでも、自由な映画作りが許されなかった時代があります。そんな彼だからこそ、人間の基本的人権に対する思いは深く、それを世に訴えたいがためにこんな映画を作ったのではないか。ぼくにはそんな気がします。  そしてトランボの監督作品は本作一作だけというのも、この作品をじっくりと見つめていると、その理由がすとんと、理解できるような気がします。彼にとっては本作だけで十分だったのです。
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