第1章

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庄三郎の居合の稽古の場面。庄三郎は居合の達人である。静まり返った林中で、気合の入った稽古をする彼だが、“気”の澄んでいる彼ですら、近くで秋谷がそれを見ていることに気づかない。秋谷の剣術が庄三郎を上回っている腕前であることが、殺陣など見ずともわかる。原作にもあった場面だが、秀逸である。どこがと言われれば、そんな達人なら、どこか猛々しさを観客は感ずるはずだが、秋谷の物腰は穏やかで、その達人ぶりが立ち居振る舞いに表れない。剣術の真の達人というのはこういうものだと言うのを、ぼくは以前聞いたことがある。秋谷を演じている役所広司に負うところ大きな場面であるが、その後の二人の台詞のやり取りも相まって、感心せずにはいられなかった場面である。 郡奉行と播磨屋との癒着を断ち切る機会は必ず来る。そう言って、いきり立つ農民たちを諌め、良い結果を導き出そうとする秋谷。 翌年の春、松吟尼さまに恩赦が下ったことを側聞したという秋谷の記述を彼の日記〈蜩ノ記〉に見つける庄三郎。 一年が経った。家老中根兵右衛門に何の報告もせず、今までいったい何をしていたのだと咎められる庄三郎。 松吟尼さまとの会見を願い出、彼女の話を聞いて秋谷の無実を確信する庄三郎。 あの夜、お由の方と鶴千代の就褥の部屋に賊が押し入り、それに気づいた側近の戸田順右衛門(秋谷)はお方さまを守るべく、賊との斬り合いになった。お由の方を救えた秋谷だが、鶴千代君を救うことはできなかった。鶴千代とともに死なせて下さいと訴えるお由の方に、「お由、生きてくれ」と古い馴染みでもあったお由の方をいさめる秋谷。 収穫の季節が来た。祭の夜。奉納の酒をめぐって、播磨屋と村人とのいざこざ。村人を助けるべく大立ち回りを演ずる庄三郎。薫の厳かで優美な巫女の舞。 また冬を越し、庄三郎がこの村に来てより二年の歳月が過ぎ去ろうとしていた。 庄三郎に松吟尼さまとの面会を願い出る薫。あの急な寺の石段が実に印象的。 松吟尼さまのまごころに触れ、かの晩に何があったのか、暗に気づかされる薫。そう、薫も父の無実を確信出来た気持ちになった。松吟尼さまが父を影で慕っていたことにも気づくが。 庄三郎にお美代の方の御由緒書を託す松吟尼さま。この御由緒書が秋谷の助命嘆願の突破口となってくれればと願う庄三郎、そして松吟尼さま。
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