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信吾の言葉に、私が御家老と話をつけるから馬を貸してくれという秋谷。城内に入れば切腹は免れないというのに。
家老の座敷で謝罪する郁太郎を褒める秋谷。よくやった。それでこそ私の倅だ。家老の前に御由緒書を差し出す秋谷。もはや御由緒書は紙切れ同然。長久寺の慶仙和尚に見せているので、いずれ中根氏の悪事はばれると家老を諌める秋谷。私はすでに死人と同じ、死人のなすことゆえ耐えられよと、言うなり、家老を握りこぶしで殴りつける秋谷。少しは領民の痛みを知れ。と、秋谷は中根氏を諭すのだ。
やがて柚子の花が咲いた。そして御家譜完成。蜩ノ記も無事書き終えることが出来た。
兼通公の仏前に御家譜を供える秋谷。十年前、在りし日の兼通公は藩のためにその命を捧げてくれと、秋谷に願った。
七月の満月の晩、囲炉裏の前でひとり静かに切腹の儀の白装束を縫い上げつつ嗚咽する織江。
八月八日の朝、山の絞り水を汲んで身を清める秋谷。身綺麗になった彼に最後の茶を差し出す織江。心から感謝の言葉を笑顔で述べあう夫と妻。「きょうも暑くなりそうだな」「左様でございますね」。まるでまったく日常と変わらぬ会話を交わすふたり。それと同時に朝の蜩が鳴いた。薫の手植えの柚子に見事な実がいくつも実っている。まだ青い柚子だが立派な実だ。秋谷の髷を結いあげ、無言で見送る織江。そして家族たち。秋谷にも彼らにももはや、言葉は意味を持たない。振りかえり、笑顔をふいに見せて、無言のまま去ってゆく秋谷。
エンドロール。
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