発端

3/3
前へ
/453ページ
次へ
   コンクリートの先の海には、回転灯の赤い光が映っていた。その向こうに、鉛色の月が滲んでいる。  波に揺れるその月に、加奈は一瞬、目を奪われた。音のない、とても静かな光景に思えたからだ。  パトカーから降りてきた若い警官が、遠慮がちに加奈に会釈をする。  加奈は無言で、まだ熱を持っている銃を彼に渡すと、今、ドアが閉められようとしている救急車に乗り込んだ。  加奈はそこに横たわる男を見た。  彼は苦しい息の下、加奈を見て少し、微笑んだ。
/453ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1227人が本棚に入れています
本棚に追加