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ベッドの枕元で、スマホが時刻を告げる。
うるさくなって途中で止め、二度寝の態勢に入る。
「奏、起きてらっしゃい、遅刻するわよー」
母が呼んだような気もするのだが、聞こえなかったフリをする。というか、起きられない。
すると、誰かが部屋のドアを開ける音がした。
「奏様、起きてくださいませ。学校に遅刻なさいますよ?」
メイドの希望が起こしに来た。それでも奏は微動だにしなかった。
かくなる上は。
希望は意を決したように一呼吸ついた。
「奏様、慧様がお迎えに来ていらっしゃいます」
途端にガバッと身を起こし、スマホの画面を見て悲鳴を上げた。
「キャー!?嘘!もうこんな時間!?」
奏とのこの会話は日常茶飯事だ。
寝起きが悪い奏は、慧が迎えに来ていると告げれば起きる。
「奥様もお呼びになられたんですよ?」
「うーん、聞こえたような聞こえなかったような…」
「とりあえず、早くしないと本当に遅刻なさいますよ?」
やば、とベッドから下りると、せっせと身支度を始める。
いつも遅刻ギリギリの奏は早着替えはお手の物だ。
「よし、できた!のぞ、車出して!」
「こんなにバタバタしないように起きればよろしいのに…。分かりました、すぐに準備させます」
希望はお辞儀をして部屋を出ていった。
奏も部屋を出ていこうとしたが、忘れ物に気付き、自分の机に戻る。
小さな青い箱を開ける。
箱はリングボックスで、シンプルな指輪が入っている。それをくれた人は、きっと今日も学校で待ってくれているはずだ。
あの人も左の薬指につけて。
「奏様、お車の用意ができました」
希望が呼ぶ声が聞こえ、左の薬指に指輪をつけた。
「今行くー!」
奏はパタパタと部屋を出た。
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