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噂話が内部に秘める力は人に伝わるほど膨れ上がっていつか形となる。具現となる。実体となる。
何がそうさせるのかとたずねれば、おばあちゃんはいつも言った。
人の心、思念、感情、思い込み。そうした人の心の根底に潜む切っても切り離せないものが恥じらいも躊躇いもなく事を為すんだよ、と。
そうして一度実体となった噂話は、嫉妬する女みたいに白い手でまとわりついてそう容易く肉体から離れてはくれないのさ、と。
俺はその手の話に耳を傾けるとき、いつも縮こまっていた。
どうしてかって。
そりゃあ決まってる。怖かったんだよ。
おばあちゃんのしわがれ声が。
今にもポックリ逝きそうな細々とした声だったんだ。鼓膜をガリガリ引っ掛かれてるみたいだった。皺まみれのざらついた手のひらの上で心臓を三角おにぎりみたいに転がされてるみたいで気持ちが悪かった。
おばあちゃんはこうも言った。
本当に恐いものはどこからともなく漂ってくる噂話でも、それを聞き不可思議な魔力で実体にしてしまう奇奇怪怪な力でもない。
人間さ。
噂話なんていうあやふやなものを信じて信じて練って練って散々たらい回しにしたあげく異形に成し上げてしまう、人間さ――。
俺はそんな話よりもまたおばあちゃんのことが怖くて震えていた。
ニタニタ笑って、妙につやつやな入れ歯を見せびらかすみたいにしていたから。
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